両神山は埼玉県秩父郡両神村と大滝村にある山であったが、2005年の市町村合併で今は小鹿野町と秩父市にまたがる山である。鋸の歯のような岩峰が連なる山容であるが、私が秩父に着いたころには曇ってその姿を拝むことは出来なかった。奥秩父山塊の北部に位置し、その山名にあるようにイザナギ、イザナミの二神を祀っている。主な登山道は4本あり、八丁峠から登るコースは鎖場の連続する難コースで滑落者も多い。グレートトラバースの田中陽希はここを登り、ファンからカツ丼バーガーを貰っている。白井差新道コースは歩きやすい登山道であるが、個人の山のため1000円の整備費を支払う必要があるが、現在は行政が通行止めにしている。最も利用者の多いコースが日向大谷コースである。両神神社里宮から山頂手前の両神神社までは何体もの石仏が祀られていて、信仰の山であることを偲ばせてくれる。前日夜に登山口手前の駐車場に車中泊した私は、5月16日、午前3時40分に目を覚まし、ゆっくりと準備し4時40分登山を開始した。

観像堂前の鳥居をくぐると表参道となる

民宿両神山荘横を抜け登山道へ

夜来の雨は上がっているが、いつ降り出してもおかしくない天気である。バス停前の擁壁につけられた階段を上り民宿両神山荘の脇を通ると、七滝沢ルートが大水の被害で封鎖されている看板を目にする。下山ルートに考えていたので残念だが仕方ない。登山届を提出し進むと、昨年の登山事故が5件発生している看板を目にする。滑落3件、道迷い1件、行動不能1件と注意喚起に十分な役割である。白い鳥居をくぐり、観像堂に手を合わせ進むと直ぐに一体の石仏がある。ここからは薄川の北側、南斜面に切られた登山道を会所までほとんど平らな道を進む。5時半前に会所の広場に着く。ここが七滝沢コースとの分岐で、今回は行きも帰りも表参道コースを行くことになる。七滝沢に架かる3本丸太の橋を渡ると、いよいよ登山らしくなっていく。白藤の滝分岐まで標高差400mを4度渡渉し、チャートの赤い岩を踏みしめ標高を上げる。6時になり雨が降り出してきた。樹々に降った雨粒が体にあたるので、上着だけ雨具を羽織る。7時前、御幣の立つ弘法之井戸を見やり、木の根が這う登山道を上がると7時10分に清滝小屋に着いた。

弘法之井戸はコースの中間地点

清滝小屋で休憩し両神神社へ

屋根付きのベンチに座り、前日コンビニで買ったおにぎりを食べる。するとテント泊の男性がのそりと姿を現し、もう一人別の男性が登ってきて休憩をとる。20分の休息をとり、九十九折の鈴ヶ坂の急斜面に取り掛かる。コバイケイソウの群落を見ながら息を切らし約100mの急坂を上がると、産体尾根にでる。山頂までは1.4㎞、約1時間の稜線の道になる。木の根、岩場のクサリを手掛かりにして約250m標高を上げる。中ほどの岩場に単管パイプでこしらえた階段を上がり、なおも木の根の道を上がると、雨霞の先に赤い鳥居が見えた。登り初めて3時間半、ようやく両神神社に着いた。ここの狛犬は三峯神社と同じくオオカミが向かい合っているが、阿像の口はかすかに開いているに過ぎない。賽銭を上げお参りし、山頂への道を少し下りまた登り返す。雨で煙る登山道の両側にツツジの薄いピンクの花がきれいだ。岩場を登ったところで左太ももに張りが出たので、芍薬甘草を一服する。ロープを伝い、最後の鎖場を登ると、1723mの両神山山頂剣ヶ峰に立つことができた。

両神神社のオオカミの狛犬

剣ヶ峰から展望できず

剣ヶ峰に着いたのは9時少し前である。小さな祠が一つと方位盤と二等三角点と百名山の標識がさほど広いとは言えない山頂にまとめられてある。晴れていれば南北アルプス、上信越の山々を見渡せるのだが、視界は500m先までだ。景色は諦め、岩にカメラを置いて登頂証拠写真を自撮りしていると、後から登ってきた京都の男が声をかけてくれたので、スマホのシャッターを押し合いっこした。10分余りの滞在で下山する。産体尾根から清滝小屋までの鈴ヶ坂下山で、下山圧迫で右足の薬指の爪を潰してしまった。神社まではさっきの京都の男性と男女2名としか会わなかったが、10時になろうとしている雨の中、何人ものグループが登ってきた。中にはビニールのレインコートを着た人が2人いたのに驚く。山を甘く見ている証拠と受け止める。11時40分日向大谷登山口に着き、両神神社里宮に参拝し、昨日立ち寄った薬師の湯に向かった。

登頂の証拠写真
著者

わたるくん

1955年生れ 登山を頻繁に行うようになったのは退職後、地元の山岳会に入ってから。 2017年から2020年まで山形県自然公園管理員(鳥海国定公園)。

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