唐松岳頂上山荘前のベンチでお稲荷さん昼食を済ませ、12時きっかりに主稜線を五竜岳に向け出発した。登山道はすぐにきつい下りとなる。このコース唯一の難所、牛首である。牛首は痩せた岩稜帯で西斜面に鎖が設置されている。浮石に注意しながら時に鎖を掴み歩みを進めていく。牛首を抜けるのに何分かかったかと時計を見たら、ガラス面に線が刻まれている。岩にこすったようで、全くもってもったいないことをした。心の傷のみで安心したせいか、五竜岳がますます近く感じられる。ケルンのある2393mの大黒岳を過ぎ、這松の最低鞍部までもう少し下る登山道は五竜岳の北斜面が真正面である。

ここから牛首へ下りることになる

五竜山荘に荷を置き山頂へ

ここからはよそ見さえしなければ危険のない登山道が白岳まで伸びている。少し登って後ろを振り返るとこれまでたどってきた唐松岳までの緑の稜線が美しく伸びている。進めば五竜岳、戻れば唐松岳の看板を見て、五竜岳を見ると薄い雲がかかっているため太陽光線が降り注ぐ形になってしまう。13時53分、白岳から下を見ると五竜山荘の赤い屋根の一部が見える。そして山荘から五竜岳への岩の稜線が伸び、これまで青黒かった五竜が白く見えた。14時前、五竜山荘にチェックインを済ませ、山荘入り口にリュックを置き、14時10分、五竜の岩山に取りつく。

白岳から五竜岳と山荘を望む

五里霧中の五竜岳

小屋で明日の天気を聞くと、夜から明日一杯雨らしい。天気が良ければ夜明け前登ることも考えたが、まだ14時を過ぎたばかりである。今日のうちに登ることにして、カメラだけ持って岩山を登ることにしたのだ。私のはるか前に高齢夫婦が登っているのが見える。追いつくころには二人の距離はかなり離れている。岩のマークを逃さないように気をとられていたら、濃くなってきた霧の中、鹿島槍分岐の看板を危うく見逃すところだった。14時50分五竜岳山頂に立つが四方八方、五里霧中である。歓声を上げているおばさんグループ10数名が静まるのを待って、手取りで記念撮影をする。三角点が放り出されており悲しい。鹿島槍ヶ岳も剱岳も何も見えないので、すぐに下山した。おばさんグループを追い越し、少ししたところで道を間違えてしまった。岩尾根をまっすぐ来たようで、崖の行き止まりとなった。5分ほど登り返し、おばさんグループのガイドさんに出会い、事なきを得た。15時40分、五竜山荘に入り垂直な梯子の2段目に案内された。

また来ることを期して手取りの一枚

雨の遠見尾根で鹿島槍を探す

垂直の梯子を登り、畳まれた布団を枕に横になったとたん、両足の腿がつった。夕食にやっと下り、食事を済ませ必死で梯子を登った。ストレッチしようとしたができなかった。原因として水分と塩分不足。8時間弱の岩場歩きと緊張が考えられるが、こんなことでは槍穂の縦走は出来ないと反省した。翌29日、5時半の朝食のため起きるまで、12時間ただ寝ていた。食事を済ませても脚の塩梅を確かめ、6時45分下山した。予報通りしとしと雨である。西遠見、大遠見、中遠見、小遠見と下っていくのだが、雨雲の切れ間に鹿島槍ヶ岳の姿が拝めないかたびたび南を振り返る。小遠見山を過ぎたあたりで中学生の一団が登ってきた。地蔵の頭のケルンを巻き、花畑の中を進み、アルプス平の駅に着いたのは10時13分であった。エスカルプラザで風呂に入り、盛蕎麦を食べ、正午過ぎ帰路に就いた。ようやく40座達成である。

北尾根の頭の先に鹿島槍ヶ岳の双耳峰
著者

わたるくん

1955年生れ 登山を頻繁に行うようになったのは退職後、地元の山岳会に入ってから。 2017年から2020年まで山形県自然公園管理員(鳥海国定公園)。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です