甲武信ヶ岳とはその名のとおり、甲州、武州、信州の三国の継ぎ目に位置している山であることから名づけられた。この山からは千曲川、荒川、笛吹川の源流が出ている。深田久弥は2度甲武信ヶ岳に登っているが、いずれも山梨県側の笛吹川の上流、東沢、釜ノ沢からである。つまり登山道の整備されていない時代は沢登りが良かったのかもしれない。さて、甲武信ヶ岳にどこから登ろうかと再三悩んだ。ガイド本の一押しは山梨県側の西沢渓谷入口からの入山で、戸渡尾根を約6時間登り甲武信小屋に泊まり、翌日頂上を極め、破風山、雁坂嶺のアップダウンを経て雁坂峠から道の駅みとみへ下りるというコースタイム約12時間半ほどのコースである。これだと2日がかりになり、自宅へ帰るのも遅くなってしまうし、これだけ長時間歩けるかも心配である。そこでマイナーコースではあるが、よくテレビで放送されている千曲川水源地を訪ねるコースを採用したのである。
毛木平から千曲川西沢を遡る
2019年6月14日、北斗市の道の駅南きよさとを4時半に出て、国道141号を北上。最高標高駅のJR小海線野辺山駅あたりから川上村に東進すると、村役場を過ぎたあたりから千曲川の南北両側にレタス畑が広がる県道を山の中へ入っていく。金峰山神社を過ぎるとダートの山道になり、やがて登山口の毛木平に着く。毛木平は広い駐車場、きれいなトイレが整備されている新しい施設である。金曜日であるためか、車は10台ほどと少なめである。片道7㎞、標高差1054m、コースタイム4時間半の千曲川源流遊歩道プラス登山道を5時50分に出発した。車道を兼ねた広葉樹林を500m進むと標識にでる。標識に従い大山祗神社脇から西沢へ入る。沢沿いの道を順調に進むと出発から1時間半ほどで滑滝にでる。滑滝といっても傾斜はほとんどないし岩肌もつやつやしているとは言い難い滝である。ここで望遠レンズを担いだバードウオッチングの中年男性と出会った。あちこちの山や渓流に入っては鳥を撮っているのだそうだ。時刻は7時を過ぎているので、鳥の鳴き声はあまり聞こえない。はたしていい写真が撮れただろうか。山形県酒田市から来ていることを話し、県唯一の離島飛島は渡り鳥の中継地として人気があると宣伝した。
千曲川・信濃川水源地から甲武信ヶ岳へ
滑滝から傾斜がきつくなり、沢に横たわる倒木も多くなる。沢を右や左に渡り、進むといつしか時計の示す標高は2000mを越えている。水源地までわずかのところで賑やかな若者の話し声が下流から響いてきた。3人連れが私を追い越して、8時半前に水源地に着いてしまった。遅れて着いた私は、彼らが飽きるのとこれから甲武信ヶ岳までの登りのために、倒木に座り休憩をとることにした。千曲川の一滴を確かめてから、ジクザクの登りに取りついた。登ること15分で国師ヶ岳へ至る奥秩父主脈縦走路に着き、尾根道を左にとり最後の岩場を登り甲武信ヶ岳に着いたのは9時23分であった。頂上は1m50㎝ほどの高さに石が築かれており「日本百名山甲武信岳」の標が一本立っている。頂上からは真南に乾徳山越しに程よく雲のかかった美しい富士山が見えた。金峰山からの眺めも良かったが、雲がある分趣がある。15分の滞在で登ってきた道を戻ることとする。5分の休憩を2回とり、12時15分毛木平駐車場に着いた。
レタス畑の向こうに八ヶ岳
毛木平から来た道を戻ると、レタス畑一面の向こう正面に八ヶ岳が遠望される。川上村の村勢要覧の表紙はレタス、裏表紙は白菜である。1740haの畑に年間7万トン以上のレタスを出荷している日本一の村だ。人口は住基では4020人(平成27年)だが国勢調査では4607人である。この差の大半は農業実習生であろう。軽トラックの荷台に2、3人の東南アジア系の顔をした人たちが乗っていた。診療所、デイサービスセンターなどを併設したヘルシーパークかわかみの温泉施設に寄ることにした。午後1時の浴室は私一人でのんびりしたものである。入浴後カレーを食べてから2時10分川上村を後にした。家に着いたのは午後9時半過ぎで、車の総走行距離は1400㎞になっていた。3泊4日、奥秩父の4座、瑞牆山、金峰山、大菩薩嶺、甲武信ヶ岳の登山は晴天に恵まれた楽しい山行となった。