トラブルに備えてvol.1では、万が一に備えるための小物装備を紹介したが、2回目に取り上げるのは、山で遭遇する危険に備えいつも携行している装備を紹介する。特別なものはない。このうち雨具、ツェルト、レスキューシートはリュックの中に入れており、熊鈴とホイッスルはリュックに下げられている。それでは失敗や見聞きした事例を交え取り上げていこう。
雨具はゴアテックスに限る
登山を始めたころ、ゴアテックスの雨具は高かったため、なかなか手が出なかった。ほかのもので代用していたが、雨で濡れる以上に汗で内側から濡れてしまう。買う踏ん切りがついたのが子供の学校登山の時で、黄色と青色のものを妻用と自分用に買ったのは20年も前のことになる。そのうち黄色のものは普段使い用として頻繁にきており、今はかなり汚れがひどく、とてもお出かけ登山には使えない。そこでもう一着軽量タイプの赤色のものを一昨年買った。そもそも晴れの日に登ることを信条にしているので雨具はめったに使わないのだが、初めて登山の途中に使ったのは岩手山であった。五合目あたりから黒い雲が発生し、御蔵石で風を遮りながら青色の雨具を着たことを覚えている。赤いやつは五竜山荘から遠見尾根を下山する間来ていた。一枚ものなので軽快だったところがよかった。とにかく天候の急変、高地での風よけ寒さ除けに必携の一品であることに間違いはない。
ツェルトとレスキューシート
ツェルトとレスキューシートを使ったことがある一般登山者はかなり少ないのではないか。したがって、ツェルトを携行している登山者はツアー20人のうち半分に満たないと考える。しかし、ツアーならいらないとか、ソロだから持っていくべきというものではない。最近鳥海山縦走ツアーでこんなことがあった。鉾立から登ったツアーが悪天候と疲れと寒さで足が止まってしまい、山中で日が暮れてしまった。しかし、日帰り登山のためライトを持っていた登山者は半数もいなかった。闇夜の下山はかなりの危険が伴うので、夏山ということでビバークを考えてもよかろうが、たぶんツェルトを持っていた人は半分もいなかったのだろう。救助要請をして、なんとか下山したのは0時近くだったという。ソロなら間違いなく岩陰にビバークだ。また、何十年も前になるが、山頂付近で岩陰でしゃがんで亡くなった女性二人がいたこともある。雨具だけでなくツェルトがあったら助かったのではと悔やまれる。そんなことを知っているから、ソロ、多人数にかかわらず必ずリュックに忍ばせるのである。
ウインドブレーカー+フリース
ウインドブレーカーも必携で、これは誰もが持っていると思う。季節によって、その日の天候によって3タイプを用意している。写真のものは一番薄いもので、収納袋に入れられる夏山タイプ。山頂付近で風が冷たいときに役立つ一品だ。春先や秋も深くなるともう少し厚手のものを持つようにしている。10月の終わり、鉾立は晴れていたのに、昼前鳥海山山頂は吹雪に変わった。ウインドブレーカーの上に雨具を着たが、寒くて歯がかみ合わない。標高1200mでは快適だったのに、2200mでは山は冬に変わったのであった。防寒重ね着用にフリースあるいはダウンを持っていかなかったのがいけなかった。
熊鈴とホイッスル
熊鈴は下げたり、外したり、適宜使っている。つまり、登山者が多い山、森林限界を超えた岩稜帯では鈴をしまうのである。槍沢からずっと、熊鈴を聞くのは苦痛以外の何物でもない。モンベルの赤い鈴は貰い物で、音が「ガラガラ」と低い音なので、遠くに聞こえないと感じているため使っていない。鈴が二つのものは、普段の登山道巡視の際、しかも春先と秋も盛りのころ使っている。これは鈴同士がぶつかり合って「チンチン」高い音がする。熊が私の存在を気づいてくれそうである。秋9月中旬、那須岳、北温泉分岐から三本槍岳に向かう笹の登山道の7、8mをサワサワと笹が揺れた。とっさに熊だと思った。熊鈴は下げていたが、リュックのポケットにしまっていた。急なことなのでホイッスルも吹けなかった、というよりすぐに熊のほうから遠ざかったので、吹かなかったほうが良かったと思う。三本槍の山頂にいた人、後から登ってきた人に笹薮の熊のことを聞いたが、だれもその存在を知らなかった。それ以来、ソロで人気のない登山道を通るときホイッスルを鳴らすようにしている。間隔を置かず3回、少し間を置いてまた3回吹く。単に気休めに過ぎないかもしれないが、他人にも邪魔にならぬ程度とはこれくらいと、一人合点しているのである。