秋田県と山形県の県境に鳥海山はある。山形県側からみると庄内平野に二つの頂がある秀麗な山容であるが、秋田県側からは高原から雄々しく起立する山である。それは山形県側は外輪山が形成されているのに対し、秋田県側は崩れ落ちたのかそれがないためである。

文殊岳、伏拝岳、行者岳、七高山が外輪を形成

自然公園管理員の私が担当する地域は、旧八幡町地域、湯ノ台口コースである。現在の湯ノ台口コースは、標高1200mにある滝ノ小屋手前の車道終点からスタートする。七高山まで標準タイムで約4時間。河原宿、大雪渓、アザミ(薊)坂を登りきると伏拝岳に達する。ここは御浜と七高山との分岐で、七高山からの下山時ガスがかかるとよく間違う所でもあるのだ。間違うのは御浜に下りたいのに、湯ノ台側、河原宿に下りるためだ。な~んでか。

吹浦口コースにも河原宿がある

伏拝岳、文殊岳、七五三掛、御浜の先、吹浦口コースにも河原宿があるためではないか、というのが一つの見方だが、最大の理由は、標識を見ないこと、地図で確かめないことだろう。間違うのは大抵、遠方の登山者である。登山者の安全性を担保するのが道案内標識。それが、どうしたわけか19年8月に折れて、石を寄せ集め立っている状態だったのだ。そこで、県の出先機関、庄内総合支庁に新しいのを作ってもらった。

八幡山岳会メンバーの協力で交換

私一人でスコップ、ツルハシ、標識、インパクトドライバーなどを担いで交換は大変である。山岳会に相談し、6月28日梅雨の晴れ間を突き交換作業に入ることができた。メンバー8人がそれぞれ意欲と能力に合わせ荷を担ぎ、4時間かけて現場の伏拝岳に着いた。40分余りで交換が終了。例年なら、28日は湯ノ台口の山開きの日である。麓での神事の後、一般募集の登山者を案内する形で山岳会メンバーは登山するのだが、今年は標識交換が初仕事となった。

小雪渓にベンガラで下山ラインを印す

メンバーは簡単な昼食の後、アザミ坂の下の小雪渓に「河原宿に下りるには、西側が下山路だぞ」と、はっきり分からせるため初めてベンガラを撒いて下山ラインを表した。湯ノ台コースで遭難し、救助要請が出るのは、たぶんここでの道迷いであろうと考えられている。濃い霧が発生すると、5メートル先が見えなくなる。アザミ坂に標識はあるのだが、その下180度雪渓のため、まっすぐ雪渓を進んでしまう。すると雪渓を下りきって藪になる。間違ったと思って登り返せばよいのだが、藪を突っ切ろうとする。藪はなかなか手ごわい。方向が分からなくなる。携帯もつながらない。絶望の中夜を迎える。・・・・・・ そんなことをさけるため、トラロープと並行する形でベンガラを撒いた。これで雪渓のある7月上中旬の道迷いは避けられるだろう。昨年秋から懸案であった2つのミッションが無事終了。今週の直会では山岳会のメンバーに感謝のお酌をしなければ。

このくらいの霧だと100m先は見えるが、河原宿小屋は見えない。赤く見えるラインがベンガラ。
著者

わたるくん

1955年生れ 登山を頻繁に行うようになったのは退職後、地元の山岳会に入ってから。 2017年から2020年まで山形県自然公園管理員(鳥海国定公園)。

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