東北第一の名峰鳥海山は、孤立した一つの峰から形成されている。高さは2236メートルとそれほど高くはないが、日本海からの最短距離は12キロメートル余りで、山裾は海に引いている。昔から鳥海山の水の恵みで米作りができるのだと言われ、農家では雪が少ない年は水不足を心配する。山腹には名瀑も多く、伏流水も豊かである。鳥海山もほかの山と同じく、修験の山であるので昔は鳥海講があり、周辺の村々から登る登山口が存在する。

矢島コースのチョウカイアザミ

秋田県は鉾立が一番賑わう

秋田県側の登山口は現在4つであろうか。西から、鉾立口からの象潟コース、祓川口からの矢島コース、熊ノ森口からの猿倉コース、大清水口からの百宅コースである。地元の人はともかく、県外登山者の大多数は鳥海ブルーラインを使い、五合目の鉾立駐車場から登る。大きな駐車場にビジターセンター、食事処、売店、展望台などがあり、登山以外の避暑目的の観光客も多く来る。舗装された登山道をしばらく登ると奈曽渓谷が眺められる。ここから先は登山者の領域となり、御浜、七五三掛、千蛇谷を経て御室小屋、山頂の新山に至る。秋田県側のコースで私の一番好きなのは、祓川からのコースである。竜ケ原湿原からゴツゴツした鳥海山がでっかく聳えているのがいい。七つ釜滝から猿倉コースと合流し、次第に勾配は急になり、チョウカイアザミのでかい紫の花に驚かされる。ガレ場の舎利坂を登りきれば外輪の主峰七高山に到達する。大清水口の百宅コースは近年余り利用されなくなった。大倉、唐獅子平、霧ケ平を登ると外輪の巨石虫穴が迫ってくる登りやすいコースなのだか。

奈曽渓谷の遥か先に鳥海山(5月)

山形県は湯ノ台コースが一番早い

一方山形県側は、どうだろう。主なものは西から遊佐町の大平口からの吹浦コース、一ノ滝駐車場からの二ノ滝コースほか万助道、長坂道がある。そして旧八幡町の滝ノ小屋口からの湯ノ台コースである。標高1200メートルの車道終点駐車場に車を止め、滝ノ小屋、河原宿、大雪渓、小雪渓を経てアザミ坂の急登を登りきれば外輪の伏拝岳に至る。ここから外輪を40分ほど行き七高山に至る。新山へは手前の分岐で内側へ下りる。湯ノ台コースは出発地点が高いため累積標高差が最も低い。標準時間も矢島コースと同じくらいの5時間10分ほどだ。湯ノ台コースは、八丁坂のお花畑、河原宿から上の雪渓歩き、薊坂のチョウカイアザミなどの花々と、バリエーション豊富である。薊坂を半分ほど登ると鳥海湖、笙ケ岳など西側の風景が目に入る。伏拝岳からは新山、御室小屋の荒々しい岩壁が見事である。

ニッコウキスゲとコバイケイソウの奥左に大雪渓

一番の味わいは一泊して縦走

公共交通機関が通らなくなったので、鉾立や湯ノ台などへの足は自家用車以外では乗り合いタクシーである。昔昔のその昔。庄内交通のバスが升田まで通ってた頃は、草津の手前に登山口というバス停があった。そこから4キロ車道を歩き、湯ノ台口から横堂を通り、西物見を登り滝ノ小屋に至るのである。ここまで約4時間かかることを思えば、今はたやすく山頂を制覇できる。さて、電車や飛行機でくる登山者は、遊佐駅、あるいは象潟駅からタクシーを予約するのが良い。酒田駅からタクシー利用の人もいる。自家用車の移動代行はまだないようである。そんなタクシー利用の方にお勧めなのは、御室小屋で一泊し、日の出を新山で迎えるか、あるいは七高山から日本海に浮かぶ影鳥海を見て、別の登山口に下りる一泊縦走の登山である。以前夜中に登り、御室小屋で仮眠をとり、4時の御来光を見たことがあったが、そんな無理はお勧めできない。夏から秋にかけての二日間、運が良ければ鳥海山を満喫できよう。

著者

わたるくん

1955年生れ 登山を頻繁に行うようになったのは退職後、地元の山岳会に入ってから。 2017年から2020年まで山形県自然公園管理員(鳥海国定公園)。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です