自然公園管理員の基本的仕事は受け持ち区域の巡視である。私の受け持ち区域は、旧八幡町区域、つまり鳥海山の登山道でいうと「湯ノ台コース」にあたる。このほかに国定公園区域が升田の奥山にも広がっているため、奥山林道を入った区域も一応担当区域である。この区域では、砂防工事、発電所関係の工事が行われることがあり、その状況も見に行くことがある。でも97%は湯ノ台コースとその周辺の登山道の巡視を主な仕事場としている。
春、鳳来山登山道から
雪が降らなくなり、春山の3月ころになると、春スキーやスノーモビルを楽しむ人が、牧場の丁字路に車を止めて山に入る。モビルだと滝ノ小屋あたりまで、スキーヤーはさらに上まで登り大滑降を行うのである。8月1日放送されたNHK-BS「グレートトラバース3、vol.28 早春、東北の名峰5座」を見た人はお分かりだろうが、田中陽希さんが下見に行った滝ノ小屋ではモビルが映っていたし、外輪までの急斜面、外輪からの滑降にはスキーヤーの姿があった。モビルは県外からの人が多く、多い時で10台ちかく登る。私はスキーをしないので、車で行けるところまで行き、そこからかんじきをはいて宮様コースを滝ノ小屋まで登る。そのほかに、鳳来山まで2本の登山道の巡視を行う。雪で倒木の確認、除去が主な仕事となる。今年は4本の倒木があり、そのうち3本を山岳会の協力で除去することができた。
夏山に向け登山道の整備
6月下旬になると、滝ノ小屋線車道の除雪と安全設備の取り付けが終わり、夏山シーズンを迎える。6月の最後の土曜日が、鳥海山湯ノ台コースの山開きの日である。今年は新型コロナのため、関係者のみの神事だけだったが、例年は山開き登山を行う。山頂コースと月山森コースの二手に分かれ行われる。これより前の仕事として、外輪の崩れているところに安全ロープの取り付けがある。また、今年は伏拝岳の標識の交換を山岳会の協力で行った。加えて、薊坂の標識から小雪渓にコースを明示するラインとして、ベンガラを撒いた。通常の仕事は、登山道に張り出した樹木、あるいは笹などの除去である。厚い積雪で木がへたり、登山道に被さってくる。太い枝は鋸で、細い枝は剪定ばさみで切る。7月下旬、滝ノ小屋の上の雪渓が消えてくると、横道へ誘導する規制ロープを張る。これは登山道を無視して侵入する登山者を規制するため、2018年8月に135㎝の鉄杭4本を担ぎ上げ張ったものだ。前述の外輪のロープも同じ年に更新したものである。
盗掘は見られないが登山道を外れる人がいる
梅雨が明け本格的に夏山シーズンになると山のルールを知らない人も増えてくる。登山届を出さない人、ストックにキャップを付けない人、運動靴で登る人など様々である。レクレーションの山行である人もたまに見られ、登山道を外れて草地に腰を下ろすことがある。それを見つけると注意をすることになる。高山植物の盗掘も気を付けているが今までその事例はないし、それらしい跡を見たこともない。鳥海山にはそれほど貴重な植物はないこともあろうが、採るのではなく撮ることにしているからであろう。熱心に撮影している人も少ないが、先日スケッチをしている西宮の人に声をかけた。月山から鳥海に来て2日目で、明日まで滞在するのだそうだ。優雅な趣味の持ち主で、うらやましい。大雪渓が小さくなり、夏道が現れると登山道に穴がないか、切り株で躓かないか注意をはらい巡視する。たまに道を聞かれることもある。「〇〇まで私の足で何分かかるでしょか。」答えようがない。あなたの脚力を見抜けるほど、私は眼力を備えていない。そんな時は、邪見にしないで、標準タイムを教えている。地図を持っていないことが分かれば、市役所発行の登山地図を差し上げている。
10月下旬で登山シーズン終了
2018年6月と7月、遭難事故が相次いで発生した。濃霧による道迷いが原因と思われる。薊坂を下山し、雪渓を真下に下りてしまい、河原宿に着けないのである。雪渓を登り返せばいいのだが、その体力、気力がなく藪漕ぎする。方向が合っていれば発見され、間違っていれば発見されることがない。その夏、道迷い対策として、市役所で薊坂の標識に写真入りの案内を巻き付けた。私も県が作った案内看板を立てた。そのせいか、2019年と今年道迷い遭難は発生していない。
咲き誇っていた高山植物も枯れ、ナナカマドの赤い実が輝き、ブナが葉を落とすようになると、秋も深まり、山は冬を迎える準備に入る。10月になると初冠雪がみられ、下旬には訪れる登山者はぐっと少なくなる。11月中旬、滝ノ小屋も小屋閉めし、荒木沢の橋も撤去される。私は、外輪の安全ロープと鉄杭を外す作業をすることで、外輪とはお別れとなる。車道終点のトイレも閉鎖され、やがて雪が降ってくる。12月、牧場の丁字路で通行止めになり、来年の春まで鳥海山は眠りにつく。それでもスノーシュー、スキーてのトレッキングを楽しみたい人はいるもので、晴れの土日には数台の車が止まっていることがある。私は、万一の事故に対応できるのではと思い、車のナンバープレートを控えておくのだ。