子どもだったころ、東北一高い山は鳥海山だと思っていた。長ずるにつれ、それは燧ケ岳と知ったが、群馬県との県境にある山で、半分は関東の山だと思っていた。しかし、地図をよく見ると、福島県と群馬県、新潟県の県境は、尾瀬沼を横切り野尻川沿いに進み、尾瀬ヶ原を南から北に横断し、只見川で新潟県との境とするのである。つまり、燧ケ岳の全部が福島県桧枝岐村に在り、東北一の高峰であることに間違いない。そんな燧ケ岳に登ったのは2016年7月2日・土曜日で、山開きの前日であった。
沼山峠から尾瀬沼に入る
前日夕方、尾瀬御池駐車場に車を止めた。20台余りが止められている。山開きは明後日のためか、思ったより台数は少ない。明日4時30分発のシャトルバスの時間まで、会津駒ケ岳の疲れを癒すことにする。4時前起床、支度を整え時間前にバス停で料金を払う。5分前にバスが出る。4時50分過ぎに沼山峠に着いた。休憩所はシャッターが下りている。今日の行程を案内看板で確認する。燧ケ岳まで約8㎞、登り4時間半、下り3時間10分。5時ちょうどに登山口の木道を尾瀬沼に向け入った。オオシラビソの木道を緩やかに登る。35分で鹿除けの柵に出た。2重の戸と木道がグレーチングになっており、鹿の蹄が通れない構造となっている。柵を過ぎると大江湿原が現れた。小湯沢田代分岐通過が5時42分、ニッコウキスゲがポツポツと咲いている。東岸分岐が5時50分、まっすぐ先に林に囲まれた長蔵小屋がかすかに見える。燧ケ岳に登るルート長英新道に入るため、右に進路をとる。左手の草原の向こうに尾瀬沼が朝霧にかすんで見える。6時8分、長英新道分岐。尾瀬沼と別れ、燧ケ岳登山仕切り直しである。
東北最高峰、2356m柴安嵓に立つ
分岐の道案内に俎嵓4.5㎞とある。オオシラビソの森、ぬかるみの登山道をずんずん進む。ギンリョウソウ、ゴゼンタチバナ、マイヅルソウなどの白い花が楽しませてくれる。木段に3合目のプレートを見つけたのは7時16分であった。俎嵓まで約半分となり、段々と高度を上げていく。4合目になると樹木の間から尾瀬沼を見ることができた。8時、樹林の間から燧ケ岳が姿を現す。さらに登ると見晴らしの良いミノブチ岳に着いた。北に燧ケ岳、南に尾瀬沼、その先に日光白根山など栃木の山々が雲間に望める。シャクナゲの白い花に迎えられ、8合目、御池岳を登り俎嵓の急登に取りついたのは8時40分のことである。5分ほど岩場と格闘し、8時45分俎嵓に登頂。石の祠が3基置かれてある。すぐに柴安嵓に登るためいったん岩場を下り、登り返して山頂に着いたのは、9時5分のことだ。ついに標高二三五六米、東北最高峰燧ケ岳山頂に着いた。山頂を西に歩み、尾瀬ヶ原湿原の長大な風景を見る。曇り空のため青くかすんでおり、感慨はあまり感じられない。湿原の先に至仏山が堂々と聳えている。待っていろよ。秋に来るからな。また、俎嵓に登ったころには北西からの強風が強くなり、ウインドブレーカーを着た。三脚のカメラが倒れるほどの風である。下山路、熊沢湿原の緑のじゅうたんがきれいに見える。2座の行き来で40分ほど取られたので、燧ケ岳の下山は9時35分ころになった。
休憩の湿原で冷やし中華に驚く
下山は岩稜帯を下りなければならない。岩が濡れているので手も使い慎重に下りる。沢筋はガレ場で二股になっているところもあり、道を間違えないように下りた。1時間の下山でタテヤマリンドウの咲く熊沢田代で休憩をとった。男女の登山者が昼食を摂ろうとリュックを開けた。取り出したのは、コンビニの冷やし中華である。タレをかけおいしそうにすすっている。駐車場での麺類は見たことあるが、山中休憩での麺は初めてで、驚いた。帰りのごみの心配を考えるとありえないと考えるのは私だけだろうか。ワタスゲが風邪にそよぐ広沢田代を通り、御池駐車場登山口ゲートに着いたのは12時に5分前のことであった。登山開始から約7時間、大した疲れもなく、雨にも降られず無事に燧ケ岳縦走ができて、本当に良かった。駐車場には80台ほどの車。帰路は桧枝岐村に下りた。