6月の日曜日は地域の行事で埋まっている。行事のない23日からは北岳・間ノ岳ツアーに申し込みしているので、その前の平日に2つ3つ登っておきたいということで、奥秩父山域の4座を調べることにしたのは5月29日である。瑞牆山、甲武信ヶ岳、金峰山、大菩薩嶺を巡る順序、車中泊できる場所、汗を流す温泉処の営業日等々調べ、加えて妻の休みと天気の長期予報を考慮し出発したのは、2019年6月11日のことである。9時15分酒田を出て、諏訪SAに着いたのは午後4時40分である。この日は道の駅こぶちさわに車中泊することに決め、入浴と夕食を取り寝たのは9時前であった。

巨岩、奇岩が続く登山道

明けた6月12日、小淵沢を5時に出て、深田久弥が通った増富ラジウムではなく、黒森からクリスタルラインを通り瑞牆山荘に着いたのは6時過ぎであった。この日の天気予報は午後から雨である。当初は登頂後黒森コースへ下山しみずがき林道を通るつもりでいたが、瑞牆山荘と山頂の往復に決めた。6時30分登山開始。ミズナラの茂る登山道をゆっくり標高を上げていくと、富士見平小屋の手前に祠が祀られている巨岩が現れる。登ること35分で富士見平小屋に着いた。椅子とテーブルがあったので5分ほど休憩する。小屋から東の道を行けば、横八丁、大日小屋、縦八丁を経て金峰山へ行ける。瑞牆山へはここから山腹のトラバース道になっており、天鳥川を越えるといよいよ傾斜のきつい登山道となる。岩がゴロゴロ露出する路面をしばらく登ると通称桃太郎岩と呼ばれる二つに割れた巨岩が現れる。高さ10数メートル、転がり落ちないように数十本の枝がつっかえ棒をしているのが愛嬌である。

桃太郎岩の右に登山道の梯子

石楠花のトンネルをくぐり山頂へ

シャクナゲのトンネル

桃太郎岩の横の梯子を登りさらに進むと、巨木の原生林の沢道を九十九折に登る。一枚岩に鎖の付いた道を滑らないように登り、倒木を苦闘しながら跨ぎ登ると、桃色の花が満開のシャクナゲの群生に出会った。朝早いので日の光が差し込まない。美しさは半減するが、この花の量は大拍手である。気持ちも新たにして登ると右手に尖った岩が見えてきた。天鳥川からまだ50分であるので山頂はまだのはず。それにしても岩の一つ一つが大きいし形も奇妙だ。太ももが張ってきたので、1時間登ったところで休憩を入れた。5分ほど登ると山頂と思われる上が平らな大きな岩が現れた。ここを巻けばいよいよ頂上である。梯子と鎖を使って瑞牆山山頂に立ったのは8時45分のことである。深田はこの「滑らかな大きい岩で、その上にトカゲをきめこんで、直下の岩峰群をのぞきこ」んだが、あいにく霧が上がってきた。金峰山の方を見ても近くの岩が見えるだけで、もちろん富士山も見えない。深田の4分の一、15分の滞在で下山する。

瑞牆山山頂

靴底の剥げた登山者と遭う

下山路は苔むし濡れた岩に滑らないように気を配りながら下りる。天鳥川の手前で中年男性から声を掛けられた。「登山靴の底が剥げたので瞬間接着剤を持ってないか」というではないか。これまで何度か靴底トラブルは見てきたが、接着剤を所望されたのは初めてであり、それでくっ付くとも思われない。普通の応急処置は、ガムテープやテーピングテープ、結束バンド、包帯、細引き、針金などであるのだが・・・。天候が崩れてきたのと、もう片方が剥がれるのも時間の問題と思ったので下山を勧めたが、どうしても登るというので、結束バンドを8本彼に与えた。使い方を教え別れたが、最後まで彼からありがとうの言葉はなかった。一体どうなっているんだ。心にモヤモヤを抱えながら山荘駐車場に着いたのは11時ちょうどであった。午後は諏訪大社上社本宮と前宮に参詣し、道の駅まさおかに車中泊した。

霧が出てきた瑞牆山からの岩山の眺望
著者

わたるくん

1955年生れ 登山を頻繁に行うようになったのは退職後、地元の山岳会に入ってから。 2017年から2020年まで山形県自然公園管理員(鳥海国定公園)。

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