山と渓谷、2021年9月号の特集は「事例から学ぶ 山岳遭難の教訓」であった。山渓では年に1回は特集で山岳遭難を取り上げている感じがする。我が家のバックナンバーに遭難、読図特集が数冊あるにも関わらず、9月号を買ったのは第2特集で「八ヶ岳ガイド」があったためだ。この記事によると、2020年は全国の山で約2300件、約2700人が遭難し、約1割の人が死亡、または行方不明になっているという。遭難原因で一番多いのは「道迷い」で、全体の4割を占めている。次に多いのが「転・滑落」、次いで「転倒」「病気」「疲労」と続く。ここ2年で「道迷い」の比率が上がっているのが気にかかる。「道迷い」の原因は様々だろうが、『知らないうちに道を誤る』のが迷った人の実感だろう。鳳凰山登山で私が「道迷い」をしたのも『知らないうちに』なのである。
昭文社の地図では把握しきれない
私が登山をするときに準備する地図は、昭文社の「山と高原地図」、その他の本の登山ガイド地図、そして国土地理院のデータからプリントアウトした300分の1縮尺の地形図である。ところが今回はパッキングの時国土地理院地図を自宅に忘れてしまった。いざ登山開始になって忘れたことに気づいたが、鳳凰山へは日曜日に登るため平日の登山より登山者が多いので道迷いはあるまいと思っていた。実際、登山道には赤いタグや赤ペンキが付いており、それに従い歩く。ところが、その日は登山道で私と同じペースの登山者はなく、ドンドコ沢のジクザク道入口辺りで青木鉱泉からの尾根道に『知らないうちに道を誤』ったようだ。登山道からキノコ採りあるいは林業作業の道を正しいジグザグ道と思い込み、一つ北側の尾根を150m以上も登っていたのである。さすがにここは違うと『違和感』を覚え、正しいルートに戻ることを考え、取った行動は次のとおりである。
気を静め、YAMAPをダウンロード
まず、道迷いの鉄則、来た道を引き返すことを考える。そのため現在地を把握しようと気を落ち着かせ、倒木に座り朝飯を食べることにした。時計の方位と日差しの方向のチェック、登山ガイド地図は縮尺が大きく現在地は分からなかった。これでは現在地が確認できない。次にスマホが通ずるか確認したところ、幸いアンテナが1本立っている。YAMAPのアプリから鳳凰山をダウンロードする時間、おにぎりを食べながら待った。スマホに地図が現れ、登山道と現在地が400mくらい離れているのが確認できたので、尾根をスマホを見ながら下ることにした。15分か20分下ると登山道を通る登山者が樹々の間から確認出来てホッとした。そこで二つ目の間違いが起きた。登山者を見た道はきつい斜面の下だったのだ。もう少し緩い尾根を下ればよかったのだが、これくらいの斜面なら下りられる思い、急斜面を下り、途中右足を出したとき4、5m滑落したのである。崩れやすい砂礫の斜面だったので滑ったし、数カ所の擦り傷で登山道に戻れたのである。とにかく今回はYAMAPに助けられた。神奈川の女性も目黒の親子もYAMAPで登山ルートを確認していたのを付け加えておきたい。
高齢者は特に遭難対策をしっかりと
遭難者の8割近くは40歳以上の中高年であり、この比率は変わっていない。ベテランであっても万が一の遭難に備えた対策をしっかりすることが肝要である。一つ目は、装備である。雨具、フリース、ツェルトなどの防寒対策。夜になった場合のヘッドライト。スマホの充電と予備バッテリーの準備。予備食料の携行など。2018年7月の鳥海山での遭難者は、タオルとペットボトル1本、半そでシャツ1枚の軽装登山者の道迷いだった。携帯が通じたのと早い時間の要救だったので衰弱していたが命に別状なく救出された。
二つ目は体力の維持である。疲労が激しくなると注意力、集中力が散漫になり、転落や転倒、道迷いにつながってしまう。無理な日程、睡眠不足、オーバーペースなどを避けたいものである。私は車中泊の際、酒を飲めない体質と神経質なためか眠られないので、睡眠導入剤を飲み十分な睡眠をとることにしている。今年9月末に鳥海山湯ノ台コースで救助要請があり、消防車両が午後5時半に家の前を通過した。後で聞くと、首都圏の70代の男性が下山中に足を骨折したための要救で、その人は前日に月山、前々日に蔵王山に登ってからの鳥海山登山だったらしい。連日の疲労による遭難ではと推察される。
三つ目は、登山届とこまめな家族への連絡である。私の場合、現地での登山届はもちろん家に登山ルートのメモを置いていく。加えて登る時、尾根やピークの通過や登頂時間並びに写真、下山時刻、下山後にLINEを妻に入れる。遭難は下山時が多いので、登頂写真は捜索の時の服装情報を入れるためでもある。2018年6月の鳥海山行方不明遭難は、下山時に次の山の宿泊地に遅れることを電話したが、家族にどこを下山しているか、予定より遅れていることを連絡しなかった。家族に心配をかけまいとの行動だと思うが、それが遭難発生の遅れと捜索時の情報不足につながったとみられる。