万が一のケガや体調不良への備え、急な天候不良やクマとの出遭い防止について書いてきたが、今回は雪渓歩きと岩場登りについて思うことを述べてみる。7月から8月の夏山を登るのであれば長い雪渓を歩かなくてはならない山はそんなに多くない。数十メートルをトラバースしたり、木道に残る雪面を歩くだけなら、凍っていなければたいていの人は難なく歩ける。これが、5月連休から6月の山だと全く違う様相になる。同じ時期でも、6月の東北の山は5月の長野の山と同じような雪の量となる。また、東北にはないが、長野の3000m級の山は難所の岩場を通らなければならないことがある。私の登山は夏山を主にしているので、乏しい経験でしかないが、その中で経験したことを書いてみる。
トレッキングポールは楽だ
写真のトレッキングポールは3代目のレキ(LEKI)である。2代目もレキで、2か所ともスクリューロック式だったが、長さ調節するとき緩めると次に締めるときなかなか閉まらなくなったので、1か所レバーロック式のものを買った。3代目はお出かけ用で、巡視の時は長めに調整した2代目を使い、登りの時はグリップの下を持つようにしている。以前は登りも下りもストラップを手首にかけて握っていたが、慣れてきてからはストラップは持たないで、グリップやその下を持つことで斜面への対応力が上がっていると考えている。最近の製品はグリップの下の部分に滑り止めがついているのが多いが、私はバドミントンのグリップテープを巻くことで滑り止めにしている。私たちの山岳会会員でトレッキングポールを使わない、いや持っていない人は大ベテランが多い。腕組みして登り、下りは段差があれば手でバランスをとっている。ポールを使えばもっと楽に、かつ安全に登り下りできるのにと思うが、言わない。いつだったか、膝を痛めたのでポールを借りたことがあったが、結局まもなく返したことがあった。NHKドラマ「山女日記」で蛍雪次朗さんが新しいことを拒否するベテラン登山者役を演じていたが、それと似たようなものだと思う。
アイゼンとアイスアックス
鳥海山湯ノ台口からの6、7月の登山は、大雪渓、小雪渓と長い距離雪の上を歩き登る。ことに大雪渓の登り始めは急なため、アイゼンがあると滑らず疲れにくい。山開きの時は持っていない人に、4本爪の軽アイゼンを貸している。学校登山でもこれを借り登るが、足の幅が狭いので、ずれることが往々にして発生する。雪渓が短い距離なら付けたり外したりの時間で渡りきるのでアイゼンは付けないが、1時間以上歩くとなれば使ったほうがよい。山開き時は1時間半は雪渓を歩く。4本は土踏まずの部分しか爪が刺さらないので、登りはいささか心もとない。6本爪の軽アイゼンはその点、母指球に爪があるのでグリップ力が良い。夏はこれで十分であるが、4月5月初めの鳥海山を登るには、10本、12本爪のアイゼンとピッケルが欠かせない。雪渓は登りより下りが大変だ。スリップ転倒の恐怖と戦う必要がある。沖縄の人たちと雪渓を下りるのに難儀した。足元が滑るのに短時間で慣れない。ジクザクに、山足を前に出し、谷足を下に出すことができないのだ。雪渓は朝早く、雪が解けないうちに登れば雪に足が沈まないで登れる。外輪内側に入るとき、急斜面はピッケルがないと安全確保ができない。ピッケルは雪を削り、ステップを平らにするのにも使える。これから挑戦する予定の、飯豊山石転び沢雪渓、針ノ木雪渓にはピッケルを手に持って登るという夢がある。
スリングとカラビナとヘルメット
剱岳と槍穂高縦走用にスリングとカラビナを買った。スリングは15ミリ、長さ60㎝と120㎝の2本である。カラビナはタイプBコネクタとタイプHコネクタの2種類だ。登りはともかく、下りあるいはトラバースの時必要と思ったからである。家で簡易シットハーネスの作り方を何度も練習して、2山ともリュックにぶら下げて行ったが、使わずに済んだ。大キレット、長谷川ピークも緊張の中、四肢を使い無我夢中であっという間に渡りきることができた。剱岳では、カニのたてばいはすいすいと登れた。カニのよこばいでは、前の登山者がツアー客。安全確保のため、ハーネスに2本のスリングをワイヤーロープに掛け替え下りるのに出くわしたため、20分近く待つことになった。足元の岩の出っ張りが普通にあったので、スリングを使わずに実質4分で下りられ、なによりだった。この間ヘルメットは被ったままである。落石はなかったが、涸沢岳を登るとき出っ張った岩に2度頭をぶつけたが、ヘルメットのためケガしないで済んだ。トレッキングが主な山行だが、1箇所でも不安なところがあれば、また同伴者の技量が劣るようならスリングを持っていくようにしようと思う。